パーキンソン病を理解するために


パーキンソンとは?

ロンドンで開業していたお医者さん(James Parkinson)の名前です。

パーキンソン先生は、1775年に生まれ、1824年に亡くなるまで、臨床医として地域医療に励まれました。また、医師としてだけでなく、地質学や化石の研究にも熱心に取組み、町の名士として政治運動にも情熱を燃やした方でした。
ある時先生は、手がふるえて、身体が固くなり、次第に動けなくなる原因不明の病気を患った一群の患者さんがいることに気付き、これに非常に興味を持ちました。
これらの患者さんの、臨床的な特徴をまとめて、1817年に『振戦麻痺について(Essay on the Shaking Palsy)』という小冊子を出版、学会に論文として報告しました。この本は後年、神経学の分野では歴史的名著と言われるのですが、パーキンソン先生が発表した時には、学会の誰にも注意を払ってもらえませんでした。そしてこの論文は、歴史の中に埋もれてしまったのです。


どうしてパーキンソン病と言うのですか?

フランスの大学者、シャルコー先生(1825〜1893)によって名付けられました。

しばらくパーキンソン先生の偉業は顧みられませんでしたが、世界的に著名なフランスの神経学者であるジャン・マルタン・シャルコー先生が、数十年後にこの論文を発見し、その業績をたたえて「パーキンソン氏病」と名付けたのが始まりでした。


この病気の原因は何ですか?

現在のところ、残念ながら分かっていません。原因不明の病気です。

しかし、脳の中の神経伝達物質の一つである「ドーパミン」という物質が、パーキンソン病の患者さんでは早く減少していってしまう、ということが分かってきました。


脳のどんな部分に異常が起きるのですか?

脳の幹にあたる中脳と、ここと密接な連絡をとっている脳の深部にある線条体です。

中脳には、黒質といわれる黒い色素を含んだ細胞が沢山集まっている部分があります。ここでドーパミンが作られ、ここから線条体の細胞へと送られているのです。
しかし、パーキンソン病では、この黒質細胞と線条体への連絡網が、なんらかの原因で損傷されてしまいます。


脳の解剖と黒質・線条体系ドーパミンニューロンの位置


ドーパミンが減ると、どんな症状が起きるのですか?

ふるえと、動きにくさです。

ふるえは、大体一秒間に4〜6回くらいの、比較的ゆっくりしたものです。特に、安静時振戦と言われるように、じっとしている時に起きて、何かをしようとすると消えてしまうようなものが最も典型的なものです。指先で小さな玉を丸めるような運動で、「丸薬丸め運動」などと呼ばれます。
「動きにくさ」については、車のエンジンをかけて運転するのに似ています。キーを入れないと走り出しませんし、クラッチがうまくつながらないとガクガクしてしまいます。ブレーキをうまく使わないと、坂道で走り出したまま止まらなくなってしまいます。
これと同様に、最初の一歩が踏み出せなくてじっとしていたり(寡動症)、歩き出すとトットットッと止まらなくなったり(突進現象)します。また、筋肉が固くなってうまく手足を使えない(筋固縮)状態になります。
これらは、大体身体の片側から始まって、経過とともに両方に障害が及びます。



脳梗塞でも起きるのですか?

似たようなことが起きますが、それをパーキンソン病とは言いません。

確かに細かな脳梗塞が線条体に生じて、パーキンソン病と似たような症状を起こすことがあります。しかし、「脳梗塞=脳の血管障害」という原因がはっきりとしている場合には、「原因不明の病気であるパーキンソン病」とは区別して、「脳血管性パーキンソニズム(脳血管障害によって生じた、パーキンソン病とよく似た病態、という意味)」と呼ぶことにしています。
例えば肋膜炎でも、一般細菌によって起きる「細菌性肋膜炎」と、癌によって起きる「癌性肋膜炎」、結核菌によって起きる「結核性肋膜炎」では、似たような症状(セキ、タン、胸の痛み、息苦しさ)であっても、原因・経過・治療がそれぞれ異なる様に、パーキンソン病とその他の原因で起きるパーキンソニズムとは、はっきりと分けて扱うのが、現在の神経学の立場なのです。


パーキンソニズムは、他にどんな原因で起きるのですか?

脳炎、癌、中毒、薬剤、その他の神経難病などです。

最近、アメリカの若者が密造した麻薬様物質(MPTP)を用いて、パーキンソン病とよく似た症状を起こしたことから、パーキンソン病の原因に迫れるのでは、と考えられました。
しかし、残念ながらその後の進展はないようです。


治療法はあるのですか?

今世紀になって、すばらしい治療の進歩が得られました。

「ドーパミン補充療法」がそれです。脳の中のドーパミンが減少しているから、それを補充してやれば良い、というのがその考え方でした。しかし、これは「言うは易く、行うは難し」で、現実には非常に難しいことでした。
しかし、人間の叡知がそれをやってのけたのでした(佐野先生という日本の研究者など)。
現在、神経伝達物質のバランスを取る薬(アーテンなど)、ドーパミンを脳の中に吸収しやすい形で飲む薬(マドパーなど)、また、残っているドーパミン神経細胞の連絡網を強化してあげる薬(ブロモクリプチンなど)に発展し、投与方法も「少量・多剤投与」「臨床病期に応じた投与」方法が取られるようになって、かなり良い状態で日常生活が送れるようになりました。
しかし、薬を長期に使用する際の副作用や、薬効低下など、まだまだ完全ではありません。
胎児の脳や副腎の細胞を移植する手術が試みられていますが、これは本当に限られた実験的なもので、現在のところ望んで出来るものではありません。


ご質問があればここを開いてお書きください。
★ここにパーキンソン病に関する米国の関連サイトがあります
profileのページに戻ります。

ホームページに戻ります。