脊髄小脳変性症を理解するために


脊髄小脳変性症とは?

脊髄と小脳が萎縮する病気の名前です。

人間の神経系は、頭蓋骨と背骨に囲まれて手厚く保護されている中枢神経と、そこから出て筋肉や皮膚・粘膜、関節や靱帯、血管や内臓、そしてその他の組織や器官に分布している末梢神経とに分かれています。
中枢神経は、解剖学的に大きく分けて、大脳、間脳、小脳、脳幹、脊髄に分かれています。
大脳は主としてものを考えたり、感じたり、運動を開始したりするプログラムが存在する脳であり、間脳は生き生きした生命感情を司る脳です。小脳は運動がスムーズにいくように調節し、バランスを保つために必要な脳です。脳幹はこれらの情報を脊髄に伝えたり、脊髄から入ってきた情報を小脳・間脳・大脳に伝達する役割をしています。
こうした中枢神経の中で、脊髄と小脳とはかなり密接な繋がりを持っており、神経線維が情報伝達のために行き来しているので、この両者が一緒に侵されることが稀ではありません。この病気で、なぜこの経路が選択的に傷害されるのか解っていませんが、この部分が病的に変性していく(壊されていく)病気が『脊髄小脳変性症(spino cerebellar degeneration=SCD)』と呼ばれているのです。


正常の脳幹部と小脳の位置は、右下の図のようになっています。


この画像は、MRI(核磁気共鳴法によるコンピューターイメージ)によって、脳を正面から縦に真っ二つにして描いたものです。
向かって左が顔、右が後頭部。数字で囲まれた部分が小脳。その左にある丸い部分が脳幹部の『橋』という部分。その下に長く伸びているのが脊髄です。


この病気の原因は何ですか?

現在のところ、残念ながら分かっていません。しかし、患者さんの家族の中には、同じ様な病気の人が多発する場合が多く、遺伝的な関与が強く考えられています。
また、脊髄小脳変性症と診断された患者さんの中に、脂肪酸または脂質に関する代謝障害が証明されるようになって、こちらの方面からの研究も進められていますが、まだまだ未解決の部分の多い病気です。


SCDのMRI画像






小脳全体の萎縮が見られ、特に上部の萎縮が著明なのが分かります。






どんな症状が現われるのですか?

小脳の機能として、体のバランスをとったり、自分との距離を測って手足をスムーズに動かす働きがあります。重力のある地球上で二本足で立つというのは、大変なことで、我々の足の関節、靱帯や筋肉から、膨大な量の情報が、まるでコンピューターの情報が光ファイバーを伝わって入ってくるように、脊髄から小脳へと入ってきます。
この情報システムがやられてしまうのですから、自分の足で立つことがとても大変になり、ふらつき、足を開いて必死に安定させようとするようになります。また、脊髄がやられると筋肉の緊張が高まり、反射が亢進して来ます。これらの障害か進行すると、立つことさえ出来なくなり、車椅子の生活を余儀なくされます。
また、物を取ろうとする時、測定障害により位置を確認出来なくなり、手が行き過ぎたり手前で止まったり、ゆらゆら揺れたように動揺してしまいます。この症状は足にも来ます。また、呂律が回らなくて酔っ払ったような話し方になったり、眼がゆらゆら揺れて『眼振』という症状を呈したりもします。尿が思うように出ないこともしばしばです。


リハビリ訓練をどうやったらいいのですか?

バランス訓練と、歩行練習です。平行棒で鏡を見ながら、自分の体の位置を確かめて、小脳や関節位置覚の情報不足を、視覚情報で補う訓練をして下さい。また、足に500g程度の重りを付けたり、やや重たい靴を履くなど、重心の位置を下げて歩行をすると、バランスが少しは良くなることがあります。試して見てください。



治療法はあるのですか?

今のところ、決定的なものはありません。しかし、TRH投与療法があります。

TRHというのは、Thyrotropin releasing hormonの略です。このホルモンは、下垂体前葉を刺激し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチンの分泌促進のほか、中脳-辺縁ドーパミン系、視床下部などに作用します。これが、さらに小脳のプルキンエ細胞の機能に関わる物質として作用していることが示唆されて、大分以前に注目を集めたのでした。しかし、その効果は必ずしもはっきりとはせず、14%の患者さんに対して、何らかの効果が認められている、といったものに過ぎません。ただし、それでも治療方法がゼロでない(この注射は、脊髄小脳変性症の診断があれば、保険での使用が認められています)という福音から、現在でもこの病気に使われています(筋肉注射または、静脈注射)。
この病気は、進行しますが、途中で止まることもあります。絶望せず、精神的に「病気」に押し潰されないような、素敵な心の持ち方を考えることも、この病気の療養をする上で大切だと私は思います。「あかるく」「あせらず」「あきらめず」、この三つのA(エース)を心の中に持ち続けて行って下さい。


★ここに小脳失調症に関する米国の関連サイトがあります
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